ゴールデンライラック
2017/12/18

表題作「ゴールデンライラック」は、
萩尾望都作品の中でも、
地味の雰囲気の作品だろう。
しかし、この地味さが、
人生の渋みを感じさせて非常に良い。
ライラックの茂みの中で出会った、
ヴィクトーリアとビリーの二人の小さな恋人は、
その後、様々な人生の波に翻弄されながらも、
お互いを心の片隅に置きながら生きていく。
しかし、本作は良くある浅い恋物語ではない。
ヴィクトーリアが最初に結婚するのは、
中年の紳士ハーバートだ。
彼の財産と熱心な求愛にほだされ、
彼女は結婚を選ぶ。
けれども、ヴィクトーリアはビリーを忘れられず、
ついにハーバートに懺悔する。
「あなたを一番愛していたわけじゃないのに結婚したわ」
その言葉にハーバートはこう返すのだ。
「そんなことはいいんだ。わたしのほうは一番愛してたんだから」
萩尾望都との対談集で羽海野チカが絶賛するこのシーンは、
人生の持つ豊かさを感じさせてくれる名場面である。
この作品を描いたのが、30歳前後の頃かと思うと、
作者の持つ幅広い人生観に恐れいる。
同じく収録されている「ばらの花びん」も
小気味良いテンポで描かれる傑作。
マンガという文化を一段上の世界に引き上げてしまった
作者の若き頃の才能を楽しめる傑作だろう。

ゴールデンライラック (小学館文庫)
- 作者: 萩尾望都
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/04
- メディア: 文庫
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